奈良県下の土木遺産を見学
建設コンサルタンツ協会(建コン協会)近畿支部主催・あすの夢土木共催の「現場研修会 ~近代土木遺産の現場研修in奈良~」が、8月8日に行われました。
この現場研修会は、今も現役で人々の暮らしを支えている土木遺産からその歴史と土木の重要性を学ぶとともに、将来に向けたインフラ(社会基盤)について考えることを目的に開催しています。
今回の現場研修は、県下に土木遺産が広く点在する奈良県を選択。昭和初期に建設され、現在も役割を担っている近鉄吉野線吉野川橋梁、紀伊半島大水害で被災した川上村迫地区災害復旧現場、平成24年に完成した洪水調整機能等を担う大滝ダム、および幻の五新鉄道の遺構を見学しました。
参加した建コン協会支部会員とその家族およびあすの夢土木会員合わせて70人余が土木遺産を通して土木の重要性を学びながら夏休みの楽しいひとときを過ごしました。
築90歳の近鉄吉野川橋梁を見学
午前9時過ぎに近鉄大和八木駅を出発した一行は、近鉄吉野線の吉野川橋梁を見学しました。吉野川橋梁は延長約242m、線路の高さは水面から19mの鉄橋で、昭和2年(1927年)に完成しました。構造形式としては、部材を三角形に組んだトラス(プラットトラス)といわれる構造で、明治時代によく採用されました。
今日では、吉野川橋梁を渡る近鉄電車の姿は絶好の写真撮影スポットとして有名です。歴史を感じさせる鉄橋を渡る列車に、一行は一斉にカメラを向けていました。
当日は、前日に関西地域を通過した台風5号の影響もあり、吉野川は増水し濁り水だったのが、少し残念でした。
近鉄吉野川橋梁の全景
近鉄吉野川橋梁
水害から6年、紀伊半島大水害復旧現場(川上村迫地区)を見学
このあと、平成23年に発生した紀伊半島大水害で大きな被害を受けた川上村迫地区復旧現場を訪れました。紀伊半島大水害は、平成23年8月末から9月初旬において台風12号の影響により、紀伊半島に未曾有の豪雨が降り、特に奈良県下では、5箇所で大規模な深層崩壊が発生するなど地域に甚大な被害を及ぼしました。
川上村迫地区では、8月31日から9月4日の5日間で約700mmの豪雨が降り、大規模な斜面崩壊が発生。崩壊規模は、幅約230m、長さ約400m、深さ約40m、崩壊土砂量は、推定で約87万平方メートル。この量は、甲子園球場の約2杯分に相当します。幸いにも人的被害はありませんでしたが、国道169号は全面通行止めとなりました。
復旧工事により、平成27年3月に西谷橋が完成し、現在は水路工事等を施工中で発生から6年、今なお、息の長い復旧工事が続いています。
川上村迫地区復旧現場の説明を聞く参加者
川上村迫地区復旧現場で記念写真
大滝ダムで豪雨体験
このあと、大滝ダムを訪れました。
大滝ダムは、紀の川(吉野川)流域に住む人たちの命と財産を守るとともに、奈良県や和歌山県への水の供給、下流の魚や生物が住みやすいように水を流す、さらに発電による電力の供給まで幅広く、重要な働きをしています。
昭和34年9月26日の伊勢湾台風により紀の川流域では大洪水が発生しました。それをきっかけに、洪水調節機能を有したダム建設を強く求められました。伊勢湾台風襲来の翌年、昭和35年4月よりダム建設のための予備調査が開始され、昭和37年4月に実施計画調査に着手。昭和40年4月からダム建設事業が着手され、平成14年8月、本体工事が完成しました。しかし、完成直前に貯水池斜面が地滑りを起こしたため、その対策に時間を要し、昭和37年の着工から、約50年の歳月を経て平成24年に完成しました。
ダム到着の後、ダムに隣接して設置されている学べる防災ステーションにて、「防災」と「ダム大滝ダムのしくみ」について説明を受けました。参加者はわかりやすい説明者の話に熱心に耳を傾けていました。
その後、洪水体験コーナーでは人工的につくりだされた降雨体験をしました。
紀伊半島大水害の豪雨から世界最大の時間雨量600mmまで様々な降雨を体験。最近は、「時間100mm」はよく耳にしますが、参加者で実体験した方は少なく、時間600mmでは、参加者から「雨粒が痛かった」といった感想がだされました。
大滝ダム
大滝ダム防災ステーションで説明を聞く参加者
豪雨体験コーナーで豪雨体感
実現の夢叶わなかった幻の五新鉄道遺構を見学
幻の五新鉄道遺構は、奈良県南部地域の木材輸送を目的として、明治時代に計画された五條市から新宮市を結ぶ総延長約100kmの壮大な鉄道建設事業です。
昭和12年に建設工事が着手されたが太平洋戦争で中断、戦後、工事が再開され昭和34年に五條~木戸間の工事がほぼ完成し、更に阪本まで延伸の予定であったが、経済社会情勢等の変更によって夢叶うことなく中断され幻となりました。
沿線には、今なお踏み切り跡やトンネルなど鉄道施設の名残の構造物が多く残っています。
今回は、五條市新町(国道370号沿い)に残るコンクリート製の連続アーチ高架橋を隣接のホテル屋上から眺め、その後、小雨の中、地上からも見学しました。
アーチ部の建設資材には、紀の川の砂利が使われているとの説明に、参加者からは「なるほど・・・」などと相づちを打ちながら熱心に聞いていました。
五新鉄道アーチ高架橋
見学会は午後5時に近鉄大和八木駅で解散。昨年は和歌山で、今年は奈良、さて、来年はどこかなと思いつつ、来年もぜひ参加したいと決意し、大和八木駅前にて有志による反省会を行いました。これも大変楽しかったです。
このすばらしい見学会を企画・お世話いただいた建設コンサルタンツ協会近畿支部の技術部会技術委員の方々、並びに地域部会奈良地域委員会の方々に改めてお礼申し上げます。ありがとうございました。